田中と山下                                          よしたか


「おい」

「ん?」

「漫画ばっかよんでねーでどっかいこうぜ」

「どっかってどこよ」

「なんかよーカラオケとかよー」

「お前音痴だから嫌」

「・・・

せっかくの晴れた日曜日に昼間っから漫画ばっか読んでてつまんねーやつだなお前もよー」

「そのつまんないやつの家に遊びに来るくらいしか休日の午後の過ごし方を知らんお前はどうよ」

「ああああもうー!」

「・・・読み終わった。これ面白い。お前も読め」

「俺はいいよー。そいつの絵、嫌いなんだよ。なんか気持ちわりぃ。女の子も全然好みなのが出てこないし」

「そうか?このN子とか可愛いと思うんだけど・・・」

「ええー!?お前のツボがわからんわ

Sと全然違うじゃん。そういうのもいいの?」

「Sの話はするな」

「S、いい子だったのに・・・今頃なにしてんのかなぁ」

「さあ、知らん」

「まあ、お前には興味もないだろうがな。一方的に捨てやがって・・・痛ッ」

「何も知らんのに語るな」

「お前がいきなり別れたって行ってたんだろーがよー。あの子、お前のことホントに好きだったのによー」

「うるさい。・・・フラレたんだよ」

「え、お前が?」

「うん」

「あらー。そりゃ知らんかった・・・スマン」

「いいよ」

「なんでなんで?」

「別に好きな人できたってさ・・・ありがちな話」

「へえ〜・・・あの子からなぁ・・・女ってわからんなぁ・・・」

「男とは別の生き物だからな」

「確かに。理解不能だわ・・・そういや、阿部に子供うまれたって聞いた?」

「しらん。興味も無い」

「ああそう・・・。まあ、お前阿部のことあんまり好きじゃなかったしな。しかし、俺らの年で子供生まれるやつがいるんだなーなんか不思議な気分」

「二十代半ばにもなればそんなヤツもでてくるさ」

「半ばっていうかもう後半だけどな。あー!昼間っからこんな腐ってるのがもったいねぇー!おい、人生って一回きりだぜ?こんな風に無駄にすごして、オッサンになったときに『二十代はもっとこうしたかった』とか言ってるんだぜきっと。ああ、嫌だなぁー」

「それはわかる」

「じゃあなんかしよーぜよー。まずはこの部屋を出ることから始めようぜよー」

「だからどこいくのよ」

「えーと、えーと・・・」

「女が多い場所考えてるだろ」

「う・・・」

「図星か。まあ悪くないけどな。けどそんなとこ言ってどうする。不細工なヤツが可愛い彼女つれてるのみて憂鬱な気分になるだけだぜ。お前にナンパでもできる度胸があるなら別だが」

「うわー、それは無理だわ・・・俺にナンパとか絶対無理。もし断られたらショックで立ち直れんわ・・・」

「一回でうまくいくことしか考えてねーのかよ。そりゃ無理だ」

「だってさー、可愛い女になんて声掛けるのよ・・・「可愛いですねー」か?」

「うわー昭和くさ」

「うっさい。昭和生まれだよ俺は。ていうかお前もな」

「そんなんだから童貞なんだよ」

「うおおおお。こうなったらもう魔法使いになってやるぜ!」

「なにそれ?」

「え?知らん?三十まで童貞だったら男は魔法使いになれるらしいぜ」

「知らんよ。ていうか何常識みたいに語ってんだよ」

「ネットじゃ常識だぜ」

「お前の言うネットで2ちゃんのことな。ネットの常識と社会の常識は違うから」

「まあそだけど。しかし一体どんな魔法が使えるというのやら」

「女の子に目を背けられる魔法とか?」

「そうそう、半径一メートルに女子が寄ってこなくなる魔法とか!」

「女子って久しぶりに聞いたな。合コンでまったく話しかけられなく魔法とか?」

「そうそうそう、女性専用車両にバリアー張られて入れなくなる魔法とか!」

「それはフツーに駄目だろ」

「はぁ・・・笑えんわ・・・」

「だろうね」

「ていうか合コンって俺行ったことないわ」

「俺も無い」

「あれって何するところ?告白タイムとかあるの?」

「何の罰ゲームだよそれ。そんなもんねぇだろ。ただの食事会じゃないか?」

「へえ・・・でも楽しそう・・・」

「俺らそんなの誘われねーもんな」

「阿部、嫁さんと合コンで知り合ったって言ってた」

「へー。それで結婚までいくんだ」

「いくやつはいくっしょ」

パッポー

「お、三時だ。コーヒータイム」

「おー、俺もいれてくれー」

「お前・・・ウチにコーヒー飲みにきてんじゃねぇの?」

「いや、それはついで」

「じゃ目的はなによ」

「暇つぶしにきまってんだろ」

「うん、わかってて聞いた」

コポコポ・・・

「砂糖はいつもどおり6杯?」

「あ、最近5杯に減らした」

「糖尿病対策か」

「え、糖尿病って糖分取りすぎでなんの?」

「知らん」

「テキトーやなー」

「できたぞ、はい」

「ズズ・・・うめぇ。・・・何顔反らしてんの?」

「・・・飲むとこ見て味を想像したくねんだよ。よく砂糖入りのコーヒーなんか飲めるな。もはや別の液体にしか見えん」

「ブラックで飲むやつの気のほうが知れんよ俺は」

「「はぁ・・・」」

「うわ、今ため息かぶった」

「うっとし」

「はぁ・・・彼女が欲しい・・・このコーヒーのように甘い恋がしてみたい」

「童貞まもって魔法使いになるんじゃなかったのかお前は」

「お前には冗談というものが・・・」

「通じん」

「そんなんだからフ・・・」

「あ?」

「・・・いや、降ってきそう、雨」

「今日50%らしい。降水確率」

「マジでー?朝晴れてたのに!」

「女心と秋の空」

「(・・・笑えんわ)」

「俺んち、傘ないから」

「知ってるよ。お前は濡れても平気な人なんでしょ。俺は濡れるの大嫌い」

「じゃ今のうちに走って帰るしかないな」

「うん、そうするわ。んじゃな、ごちそうさん」

「おう」

「お前、これからどうすんの?」

「漫画の続き読んでから、DVD見て、ギターの練習かな」

「計画的ですなー」

「どこがよ」

「いやなんとなく。はあ・・・明日からまた仕事だー。雨パラついてきたし・・・なんもする気がおきない。帰ったら寝ようかな」

「ご自由に」

「つめてーその言い方。じゃあなー」

「じゃあな」

 


                                        (2008/3/21)